高橋源一郎著「ぼくらの民主主義なんだぜ」を読んで

書評なんていうものをまともに書いたことがない。

ただ、忙殺される現実から少しでも逃れるため、

仕事と全く関係のないある本と出会った。

それが「ぼくらの民主主義なんだぜ」(朝日新聞出版)。

荻上チキ「Session22(TBSラジオ)」のポッドキャストで知った。

月並みな言葉であるが、とても面白かった。

ドストレートのリベラル的な考えをもった小説家が、

朝日新聞の「論壇批評」にて時事問題を著者ならではの切り口で、

エッセーとして読者に伝える。その批評集だ。

2011年4月開始なので、あの「311」直後の出来事だ。

震災から、今話題の憲法改正まで多岐にわたる。

記憶力がかなり鈍ってきたので、自分の愚見を述べたい。

今話題の集団的自衛権について、現政権の言っていることはただのまやかしだと思う。

日本の安全保障を脅かす中国に対抗する策であり、

憲法改正を視野に入れていると国会の場で堂々と国民に説明すべきだ。

そして、時を見計らって国民に信を問うべきだ。

自民党は、公明党の配慮(というか創価学会)が見え見えで、

法解釈では同党が正当性を立証するのに躍起になっている。

学者、インテリは現実の脅威が見えていないという。

知性主義と反知性主義が正面衝突している。インテリと反インテリ。理想と現実。

インドから日本のニュースに接するたびに、そう思う。

現実が理想を駆逐する。当たり前のことなのだが、

とうとう安全保障政策まで話が及んできた。

以前は改憲主義であったけれど、今の政権与党幹部の発言などを聞いていて

全く任せるにはなれない。

著書の言葉を借りるとするならば、

民主主義の主権者である「当事者」の自覚が我々には欠如しているのではないか。

国内の不満を中国や韓国といった国外に逸らそうとするのは、

権力者が行う常套手段だ。

自衛隊内の閉鎖的な環境(自殺、いじめ問題、海外派兵要員が帰国後の精神障害)など

まだまだ解決しなければならない、議論しなければならないことは山済みなのに、

与党は国会の大延長を行うことで、事の収拾を図ろうとしている。

世論も大きく二分することになるだろう。安倍総理は、祖父である岸信介が、

1960年新安保条約締結時との状況と自身を重ねているのかもしれない。

最後に、著書の終盤に、台湾の学生が国会(立法院)を占拠したニュースに触れたい。

これは大陸と台湾の間に取り交わされた「中台サービス貿易協定」に反対する学生が、

立法院を占拠した。24日間続いたが立法院長(議長)から和解案が提示された。

学生投票を行い、たった一人の学生が「撤退するかどうかについて幹部だけで決める

のは納得できません」と発言。普通であれば、大多数がこのデモ活動に終止符を打つた

め、投票という多数派の意見が採用されるはずだが、学生リーダーは一人ひとりの意見

を聞いて歩いた。そして、最後にリーダーは妥協案の受け入れを表明。唯一妥協案に

反対した学生は、「撤退の方針は個人的には受け入れがたいです。でも、ぼくの意見を

聞いてくれたことを、感謝します。ありがとう」との言葉を残したという。

民主主義とは一体なんなのか。

改めて、熟慮することがとても大切で、日々の生活の中で

あらゆる事に目を向けることの重要性を感じざるにはいられなかった。

著者の意見に全て同調はしかねるが、

立ち止まることの大切さを改めて感じさせてくれた。感謝。